書評・感想『十角館の殺人』(綾辻行人)
《書評》は、ネタバレ無しの、購入の目安としてのコメント。
《感想》は、ネタバレ有りの、読了後の参考としてのコメント。

《書評》
 現代国内ミステリにおいて、特に「新本格」と呼ばれるジャンルの入門には中々に適していると思います。
 ただ、少しばかり「本格ミステリ」、特に海外の「本格ミステリ」の知識のある人向けの部分が無くは無いです。
 ですが、ミステリとしてはそこら辺は気にしなくても良いですし、「本格ミステリ」を読んでいく気のある人ならば、自然と知ることになるような基本的知識ばかり(というか調べればすぐに分かる)なので、さして気にする必要性は無いと思われます。
 他に欠点を無理に挙げるなら、これは純文学作品ではないため、文章力や、人間を描写する技術に欠けているとの指摘があったりします。
 まぁ、今まで純文学のような巧い文章作品ばかりを読んできた人ならば、少し文章に違和感を感じられるのかもしれない、という程度で、ミステリ作品的にはなんらの問題もないであろう、というのが私の考えです。
 肝心のトリックですが、ミステリにおいて、トリックへの言及はどんな些細なことであれ、読者の想像力によってネタバレへと繋げられる危険性が高いため、詳しいことはここでは書きません。
 ただ、これを読んで面白くないと感じられたならば、その方は、少なくとも「王道の新本格ミステリ」の読者には、適していないのかもしれません。
 しかしまぁ、「新本格ミステリ」と言っても様々で、「王道」的なものもあればそうでないものもあるという、ややこしいジャンルだと思います。故に、『十角間の殺人』を読んで面白くなかったからといって、それで「新本格ミステリ」を読んだ気にはならないほうが良いでしょうね。むしろそれ以外の作品にこそ、そんな人に合った作品がある可能性が高まったわけですから、それを気に、「新本格ミステリ」の森の中へ、分け入っていくというのも面白いでしょう。


《感想》(↓反転してお読みください)
 一言で言えば、「トリックの凄い、単純な本格ミステリ」だと思う。
 良くも悪くも「単純」であろう。
 ただ、留意していただかねばならないのは、この感想を書いているのは、私がミステリをそれなりに読みなれた後の時期であり、そのためにこの作品が「単純」であると思うことが出来るようになっている時期であるということだ。
 逆に言えば、この作品(を含む【館シリーズ】)は、本格ミステリ初心者にはうってつけであろうということだ。
《書評》でも述べたが、この作品を受け付けなかったからといって「新本格ミステリ」を見限ることはできない。それは、この作品が「単純」だからである。
 どう「単純」なのかと言うと、
[孤島で殺人発生→閉鎖状況故の連続殺人への発展→殺人劇の終焉→探偵役による謎解き→終幕]
 以上の工程は、「本格ミステリ」のテンプレートとでも言うべき「型」であるが、本作品は、まさにその「型」そのものの展開によって作られており、且つ、その「型」以外の展開が全くと言って良いほど無い。
 すなわち本作品は、「本格ミステリ」の「型」を学習する上において、とても良い見本であるということだ。
 だが、本作品はただの「本格ミステリの見本」ではない。
 私はこの《感想》の最初に、「『トリックの凄い』、単純な本格ミステリ」だと書いた。
 本作品のトリックは、衝撃的だ。構造が型通りであるが故にシンプルにまとまった読みやすさ。その中にあるトリックが絶大であるがために、そのトリックが与える衝撃も甚大である。
 この作品が成功したのは、「単純」であったからなのではないだろうか。
 余計な小話は殆ど無く(犯人の動機付けのために、おまけ程度のお話があるにはあるが)、スムーズに、詰まることなく読み終わることが出来る。
 この構造が、トリックを魅せるための絶好の舞台装置となって働いたのではないかと思うのだ。
 本作品は、「本格ミステリ」の型を見せてくれ、且つ「本格ミステリ」の凄さも同時に見せてくれる。まったくもって素晴らしいお手本であろう。
「お手本」、つまりこの作品は、読者に与える影響力が別格なのだ。故にこの作品を契機に、「新本格」ブームが到来したのではないだろうか。
 理想的な、真似したくなるような『十角館の殺人』という「お手本」があったからこその「新本格」ブーム。
 言ってしまえば、それ以降の「新本格」作品は、本作品のエピゴーネンに過ぎない、ということになってしまうが……。
 この考察はまたの機会に譲るとしよう。

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