書評・感想『鬼に捧げる夜想曲』(神津慶次郎)
《書評》は、ネタバレ無しの、購入の目安としてのコメント。
《感想》は、ネタバレ有りの、読了後の参考としてのコメント。
《書評》
第十四回鮎川哲也賞受賞作。
なんともはや、現れるべくして現れた、というところなんでしょうか。
横溝正史に京極夏彦を織り交ぜたような、と選評なんかでもよく言われているこの作品。というか作風。
とは言え、この手の手合いは、何もこの作品に始まったことではないわけで。
言ってしまえば、綾辻行人にしろ有栖川有栖にしろ、「本格ミステリ」というのは元々そういう気質を持っていたと考えるべきなのかもしれない。
そう考えてくると、気になるのは笠井潔の選評なのだが……。
ううむ、大した言及はされていない。
おそらく平板化しているのだろう。本格ミステリにおいて、この手の手合い。つまるところ、島田荘司風に言うところの、「コード多用」というのは、本格ミステリの宿命なのかもしれず、そういった作風を持つ作品は、山ほどもあると言えるだろうから。
しかし、そのことを考える上で、本作品が、1987年の『十角館の殺人』の衝撃を経ても尚、2004年に鮎川賞を受賞し、製本化されたということは、注目に値すべき事態なのではないだろうか。
《感想》(↓反転してお読みください)
この作品を、《書評》で書いたような「本格ミステリ」を歴史的に俯瞰するためではなく、単純に本格ミステリ作品として単品で評価するのなら、はっきり言ってツマラナかった。
いや、選評でもあるように、トリックは結構な新鮮具合で良かった。
だが、全体としての流れが冗長に感じた。なんというか、コード多用ではあるのだが、コードと言うよりも、物真似という感じが目立ち、コード多用型本格ミステリ特有の、ワクワクとドキドキが全然無かったのだ。
無駄に魅力が前面に押し出された美少女描写。
子供っぽい言い回し。
そして何よりも、いったいぜんたい何が目的で、ああも推理披露の会話が、引き伸ばしに引き伸ばされるのか!?
とにかく推理する人間の披露する速度が尋常じゃなく遅い!
あんた一体何行分使って一つのこと言うつもりなんですか!?
しかも、どんでん返し(と言うほどのものでも無かった気がするが)が複数回あって、それでまた推理披露が延長されるわで、ホント、嫌になってきました。
そりゃ、探偵役の秘密主義が登場人物たちのイライラを掻き立てるというのも、一つのコードと考えられなくもない定番の一つではありますが、これは異常なほどにもったいぶった喋り方をする。
これがただの文章力不足だというのなら、この作家にはもっと精進してもらわないと困りますね。まぁ、受賞当時19歳だったっていうんですから、それを考えれば……、ってそれにしてもこれはちょっと酷いと思うなぁ、やっぱり。
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