押し花入門



 皆さんは押し花というものをご存知だろうか。そんなものぐらい知っている、という方が大勢いるかもしれないが少しばかり説明させていただくと、適当な花 を摘んできて、それに上下から何らかの方法で圧力をかけて潰し、平べったくしたものを透明な板で蓋をして飾る。一般的な押し花ならば、圧力をかけるのに も、分厚い辞書の真中あたりに挟みこんで一週間ほど放置したりと色々あるが、とにかく花を潰して保存する、というものが押し花である。
 そんなこと何のためにするのか、と思われる方もおられるだろう。そんなことをするぐらいなら普通に生ければ良いではないか、とも。しかし、押し花にしてしまえばわざわざ水をやる必要もなくなり、それを飾る空間に中々洒落た雰囲気を醸し出すことが出来る。
 そんな手間暇をかけて何の価値があるのかと問われるだろうか。それは押しつぶさなければ出てこない汁、あれは良い香りを漂わせる。他に、押しつぶされた姿それ自体も、実に美しいのだ。こればかりは実際やってみなければ解らないだろう。
 興味をもった方は、是非実際にやってみることをお勧めする。
 しかし、これだけでは押し花の魅力が充分伝わっていないかもしれない。もっと詳しく教えてくれと言われる方もおられるだろう。そんな方々のために、更に詳しく説明することにしよう。

 まずは肝心の花を摘む。摘むのだから雑草で良いのだが――店で売っている花は大抵質が悪いしお金もかかる――、だからと言って汚れているものはあまりお 勧めできない。何故なら見て解る通りであるが、形も色も悪いからだ。汚れているかどうかは意外と分かりにくいもので、持ち帰ってから調べて漸(ようや)く 気づくときがままある。そういう失敗を犯さないためには、花自身に汚れているかどうか訊いてみれば良いのだが、それは実際問題不可能だ。そんなことをした ら気狂いと思われるだけである。この汚れの問題は、摘んできた以上我慢するしかないだろう。
 次に、プレス機の用意。私の場合は、働いている工場にちょうど良いことに正真正銘のプレス機があるため、それを無断ではあるがばれないように使っている ので長い間待たずとも一瞬で押し花が作れるのだが、一般家庭にそんなものは無いので何か工夫が必要だろう。これは難題である。ちょうど良いものが思い浮か ばないので、これは自分で考えてもらうしか無さそうである。なんならば私の工場まで来ていただけばプレス機を貸してあげても良い。
 では、何らかの方法で潰した後、保存しておく入れ物の用意について。まずカバーは硝子がベストだろう。それが無理ならプラスチックでも良い。私は硝子の 方が平になるので、私の好みにはそちらがぴったりなのだが、中にはプラスチックを被せてその凸凹(でこぼこ)とした立体感を楽しむ、という嗜好を持った人 もおられるだろうから、やはり硝子がベストだ、とは言い切れない気もする。しかし、下に敷くものについてばかりは、私は強くお勧めしたいものがある。それ は病院のベッドなどに掛けられている、真っ白なシーツを被せた布団。これは潰した時に出る花の汁を吸収して匂いの保存をしてくれるばかりか、その潔白が花 の美しさを際立たせてくれるのだ。私は一時期、交通事故で入院していたことがあるのだが、その時私の為に用意されていた花が、何かの弾みで布団の上に乗っ た時があったが、あの時あの瞬間を目撃していて本当に良かったと思う。純白のシーツの上の花、それを押し花にしたらどんなに良いだろうかという、疑問と共 に走った衝撃に、私は鳥肌がたったのを覚えている。それ以来私は、何度も漂白剤を使って洗った白白たるシーツを被せた布団以外のものを敷物に使ったことが ない。しかし、これがまたお金が掛かるのだが、こればっかりは仕方ないと諦めている。
 後は……、他にはもう押し花の説明は無いだろうか。いや、まだあった。鑑賞法の説明も一応しておこう。以下は私の方法であるから、別にこれがベストとい うわけではない。押し花を完成する上で、鑑賞できなくては意味が無く、その鑑賞で感動を得るために押し花をするようなものだから、是非とも、ご自分好みの 鑑賞法を見つけてほしいと思う。
 私の場合は、まず押し花の全体を見たいと思い、壁際にちょっとした箪笥などを置き、その上に標本を乗せる。そして、その標本の下の箪笥の部分に、その花 の名前を書いた紙をセロハンテープで貼り付けておく。更に、潰す前の写真もちゃんと事前に撮っておき、それもまた箪笥の部分に貼り付けておく。そうするこ とで、押し花にする前と押し花にした後とですぐに見比べる事が出来、自分の押し花の腕前が解り易くなるのだ。
 さて、押し花の説明はこんなところで良いだろうか。今日もまた、私は路上で見つけた花を押し花にするつもりなのだ。今回の花の名前は、嶺崎鈴奈(みねざきりんな)、年齢は二十二歳とか言っていた。薬学系の大学に通っていたらしい。しかし今日からは私の家で押し花として保存されるのだ。果たして彼女は汚れていないだろうか? 処女膜が残っているかどうかというのも、――血の分布という点で、押し花に少しは関係するが、それよりも問題なのは形と色で ある。その陰部が使い古されてパックリ開いていると、また真っ黒に変色していると、潰した時の見映えは当然悪くなる。この汚れているかどうかという判断は 本当に難しい。私が感動に打ちのめされて始めて行った押し花は、前述した病院の、私の為に用意されていた花――看護婦さんである釜谷裕子さんだったのだ が、彼女は正に天使のような外見を持ちながらにして、実際の所はヤリマンだったのだ。プレス機の上で彼女の裸体を見た時には随分と失望したものだった。し かし、それでも折角なのでちゃんとコレクション第一号として保存してある。押し花の良いところは、保存期間が長ければ長いほど、良い匂いを発する所にあ る。釜谷看護婦の押し花は、実に良い芳香を放って私を刺激する。
 嶺崎鈴奈は処女だった。まず陰部に指を差し入れ徐々に深くしていき腕を埋め……。その時点で彼女の陰部からは大量の血が流れ出ていた。そう、そう、一つ 言い忘れていたが、摘んだ後はなるべく早くに汚れているかどうかを確かめた方が良い。その方が、草花の茎を引き裂くのと同じように処女膜を引き裂く快感を 味わい、出血を視認することによって更なる興奮を得る事が出来るし、そうすると陰部の辺りの血が増えて見映えが良くなるからだ。
 では、また新たな押し花を得るための作業を再開しよう……。
 私はプレス機のボタンを押した。
 既に生命の無い体とはいえ、自分と同じ人間の体、それが今、強烈無比なプレス機によって押し潰されようとしている。否応にも盛り上がる気分。まるで自分がプレスされているかのように、拍動が凄まじく、心臓が破裂せんばかりに……。

 メリめリめりメり――

 肋骨が砕け、頭蓋骨が砕け……。血が滲み流れ、異臭が漂い……。
 こうしてまた新たな押し花が、強烈な匂いを放ちながら、完成した……。
「いや、まだだ。ちゃんと硝子と純白のシーツで挟んで並べて、それで初めて、完成っていうんだからね。そう、それで漸く押し花は完成だ」


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