闇鍋炎上


 闇鍋パーティをすることになった。僕の家で。君の部屋で。
 メンバーは高校のクラスメイト五人。僕たちの通うスーパー高校は、男子校だが女子もいた。
 今日の放課後の午後一時に、君たちはその六人――僕たちは入学後知り合って以来の長い交友関係を続けている。何せ今年で百年目だ――で、それぞれ別々の自分の教室に集合すると、さっそく亜由美が言い出した。
「最近チョー多忙」
「じゃあパーティでもしようぜ」
「それいいねぇ」
 すぐに退助がアドヴァイスをすると、二人で勝手に盛り上がり始めたので、他の君たちはどうしようもなく眺め入った。二人とも嫌悪感丸出しの殴りあいだ。
 暫くすると、退助がその試合を制したかに見えた。亜由美の足が退助の横顔を蹂躙している。
「勝った……」
 退助の呟きでその議論は開始と相成った。そして僕の教室の時計を見ると、時刻は、午前か午後かはわからないが、八時半ということは読み取れた。
 君と同じように時計を見ていた健二が言った。
「腹が八分目でしょうがない。飯吐きに帰るわ」
 すると皆も雪崩れだした。
「俺はここでいいや」
「私は椅子持ってきてあるからそれ食べる」
「俺も母ちゃんの脂肪持ってきてあるから……」
 通り魔が趣味の博史がファミコンであることは有名だ。だから僕は言ってやった。
「ファミコンだなぁ」
「いや、それを言うならマザコンだろ」
「あそっか、ファザコンかぁ」
「お前そんなこともしらねぇのぉ。ある意味河馬だなぁ、俺」
「カァバ、それを言うなら馬鹿だろうがよ」
「静かだなぁ! 喋ってろよ!」
 そうして、君たちは闇鍋パーティをキャンセルしたのだった。

 一分ほど歩き倒して足の筋肉をブチブチ音を立てながら多量に切断する快感を覚え始めた頃、漸く僕の家がやってきた。君の部屋に入ると、皆がそれぞれの具 を鍋から取り出し始める。碇君は零号機の実物をアンビリカル・ケーブルだけ放り込む。アムロはセイラさんのお守りを放り込む。斑目は春日部さんの鼻毛を堂 々と引っこ抜いた後にそれを放り込む。ベルダンディはスレイプニールを放り込む。ガイガーは獅子王凱のサイボーグ化する前の死体を放り込む。観鈴は連れの 日焼けした風体のお兄ちゃんの生皮をその場で剥いで放り込む。秋子さんは素でジャムを流し込んだ。貴子さんは自前の制服を焼いてから入れる。予備はもう無 いのだそうだ。本須和はちぃをゴミ捨て場に放置する。シャオランは知世姫と結ばれる。ヴァンパイア・ハンターのドノヴァンは、BLEACHの刀のシステム を先行使用していたことを訴え、特許を申請する。檜山修之はディバイディング・ドライバーを打ち込んだが、キング・ジェイダーの大雪山颪によってバラバラ にされる。ストナー・サンシャインを孫悟空が放ったが、ピッコロ大魔王の元気玉によって吸収されてしまうが、それを拳士郎の千裂脚によって打ち消し、青マ ナを二つ消費した。以降エンドレス・ワルツ。
 皆の完璧な具の競演に、それで良いんだろうなと感慨にふけっていると、僕の隙をついて、秘かに音夢が首の鈴を外してしまった。これでは一体誰が誰だかわ からなくなる。心が復活した僕は鷺澤さんだけでも探し当てようと、皆の頭を触り始めた。しかし誰の頭にも猫耳らしき感触はない。君の触り損ないかとも考え られなかったが、いや、これはそうにきまっていないと思い、僕は皆の目の色を確認することにした。何せ鷺澤さんの瞳は真っ赤な血色をしているのだから。
 皆の目玉を一つ一つバタフライ・ナイフの柄の部分で汚く抉り取って確認していったのだが、出てくるのは目玉の親父ばかりで、一向にキタロウの目玉は見つからなかった。水木一郎が泣いている。どうやら涙腺だけは嵌め損ねたらしい。
「遠くで猫の鳴き声が聞こえる」
 高島屋がいきなり叫んだ。するとアルクェイドが、城平京はどうしてスパイラル・アライヴを書かないんだ、水城英多も同罪だ! といった内容の事柄で反論した。
「だってそれはしょうがないじゃないか。富樫義博なんだから」
「ちっ、しょうがねぇな〜」
 なんとか知得留後輩の否定を勝ち取ると、ひぐらしのなく頃になってようやく皆が目を覚ました。

* * * * * * * * * *




 闇鍋パーティをしようといいだしたのは僕で、言いだしっぺなのだから責任は僕にあるのかもしれない。しかし、いくら闇鍋だからといって、サイダーだと偽 りウォッカを持ってくるやつがいるとは誰が考えるだろう。しかもそいつが、何の心配もせずに、一気に一升瓶一本分のウォッカを鍋の中へ注ぎ込んでホット・ ウォッカをつくって、臭いが変だといって他の皆に気づかれぬうちに早速ライターで点火するなどと、一体誰に予想しえたろう。そいつ自身には悪気は無かった らしく、その証拠と言えるかどうかは解らないが、そいつだけ顔を全面的に火傷した。すぐに避けたことも幸いし軽度ではあったが。
 他の皆や自分に怪我が無かったからといって、僕は怒らなかったわけではない。だがそんなこと以上に気になることがあった。僕はその燃え上がる炎の中に、真理を見た気がしたのだ。
 ぼやける炎を通して皆の顔を見た。その顔は歪み、炎によって色付けがされていたために、普段僕の見知る皆の顔とは全然違って見えた。
 壊れている。そう、そのような表現が適切だと僕はその一瞬間のうちに考えたのだった。そしてその思考は次の思考へと移ろっていく。
 問題の解答とは、その問題の反対を考え、それにたいして反対することによって得られる、と僕は考えていた。つまり、テーゼに次ぐアンチ・テーゼ。
 僕は炎を見て思ったのだ。では「壊れている」とは「普通」と対比して使われる言葉だが、それは「普通」のアンチ・テーゼとなっているのか、と。それは違うように思われた。
「普通」とは、すなわち普通に「生きている」ことである。それの真反対ということは、壊れて「死んで」いなければならないのではないか。そもそも壊れるとはそういうこと、つまり死ぬということなのではないか。
 僕はそうして一つの結論を導き出したのである。「生きる」とはどういうことかという問題を解くために、そのアンチ・テーゼと思われる「壊れている」とは どういうことかを研究してもなんの意味も無いのではないかということ。そしてもう一つ、それを知るためには、やはり死ぬしかないのではないかということ。
 その結論を導き出した僕は、最早何も恐れる事はない。寧ろ今の状況を歓迎すべきだろう。
 友人の持ってきたウォッカの炎は天井にまで燃え広がり、更には付近にあったカーテンや、その他布類にも引火し、家全体の火事にまで発展した。僕はその炎の中で最後に考えた。「烏有さん、あんたの出てくる小説は全然不条理じゃない」と。


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